活性化自己リンパ球療法、聞きなれない言葉かもしれませんが、がんの免疫療法というと、世間的にはいわゆる〃自然治癒力の向上〃を標傍する代替療法である健康食品や漢方薬、あるいは民間療法など、現代の西洋医学から離れたものを思い浮かべるかもしれません。 しかし「活性化自己リンパ球療法」は、それらとは一線を画するもので、最新の免疫学から厳密に理論を導き、組み立てられた治療法です。
一部の大学病院や、がんセンターでもおこなわれている現代医学の一つなのです。 患者さん自身の免疫細胞(リンパ球など)を体外にとりだして培養し、これを刺激・活性化して増殖したものをふたたび体内にもどすことによって、がんの進行を抑えようとする治療法を「免疫細胞療法」といいます。
その中でもっとも中心となるものが「活性化自己リンパ球療法」Sクリニックでは、この3年間に500名以上、関連医療機関もふくめると1000名近くの患者さんに、この治療をおこなってきました。 一つの大学病院では、多いところでも年間3名程度であることを考えると、この人数がいかに多いかは容易に想像がつくと思います。
Sクリニックは、まだ新しいがんの診療所です。 がんの免疫学を長年、研究されていたE先生に「免疫細胞療法の専門の施設を民間で開設するので、一緒に手伝ってほしい」と声をかけられたのは、1998年の夏のことでした。
私は免疫細胞療法自体、その7年ほど前に大学病院で試みたことがありましたが、民間の医療機関でおこなうことになるとは、当時は夢にも思いませんでした。 E川先生とは、それまでもがん免疫の研究の場でときどきお会いすることがありました。
私のような若輩にも気さくに声をかけてくださる方でしたが、クリニックの開設にあたっては、「がんの免疫療法を実際の医療の場にとりいれようと真剣に考えている極めてまれな医師」と,して私を選んでくださったそうです。 ただそのときは、国の研究機関ならともかく民間でおこなうのは、あまり現実的な計画とは思えませんでした。
つまり、始めるためには膨大な設備を設けるための多額の資金と、高度な培養技術の経験を積んだ技術者たち、それを支える研究者の確保が必要です。 さらに、実際に医療をおこなうとなると、大勢の医学の研究者や臨床医の賛同とサポートがそれから3年。
多くの患者さんに接してきましたが、Sクリニックでおこなっている活性化自己リンパ球療法を主とした免疫細胞療法が、従来のがん治療に引けをとらない確立された治療法であることを、より多くの人に理解していただくために、ここでは以下の二つのことにとくに意をそそいでいます。 まず、第一に、クリニックでの実際の治療の中身を、できるだけわかりやすく紹介するということです。

免疫細胞療法は日々、発展する免疫学の知識をもって改良、進歩してきています。 それをくわしく学問的に解説しようとすると、とても難解になってしまいます。
そこで、現在、がんと闘っている患者さんが読むことも念頭において、免疫学の基礎知識がなくとも、この治療法の全体像を十分に理解していただけるように書いたつもりです(なかには、免疫学の解説の部分で物足りなさを感じられる方もいらっしゃるかもしれません。 くわしくは、免疫学的な背景も解説なくてはできません)
学者や医者が不得意とする資金面、運営面などに関しては、免疫に特化した医療サービスの会社を経営されていたKさんが協力をかってでてくれました。 このお2人の力があって、途方もない準備があっという間にすすんでいきました。
Sクリニックが開院したのは1999年の4月のことです。 病気の治療の目的は、いかに元気で長生きできるかということ以外にはありえないはずです。
もう一点は、この治療によってもたらされる効果の〃本質的なところ〃を十分に理解していただくことです。 この治療の効果を解説するうえでは、「がんが縮小した」とか「消滅した」といった事実は表現として使っても、けっしてそこに重点をおいているわけではありません。
そのような記述は患者さんにとってインパクトが強く、また、いっけん説得力もあるのかもしれません。 しかしながら、本当はそのような効果をいくら並べても、がん治療の本質をお知らせしたことにはならないのです。

たとえば、がんの消滅や縮小といった効果は、強力な抗がん剤治療を受けることによって、肺がんの場合で17%以上、胃がんの場合で17%以上の患者さんにもたらされる効果です。 ところが、残念ながら効果は一時的であり、治療を開始してから1年後、2年後となると、病気がよくなっているどころか、生きていらっしゃる方ですら、ひじょうに少ないという現実があります。
また、多少は長生きできたとしても、元気に生活できていたかどうかはわかりません。 ここでは臨床の場の真の姿を知っていただくために、ある程度長い期間治療を受け、経過を語っていただける方を中心にお願いしました。
そのなかで、医師を職業とする患者さんの代表として、長野県のS病院で院長をされているM津先生にご登場いただきました。 M津院長はみずからが、がん治療を手がける外科医であり、ご自身が肺がんを患った後、病気による苦痛からまったく解放されて、寿命をまっとうできれば、ほかにはなにも医者に求めるものはないはずです。
この免疫細胞療法の効果は、あくまでもそうした立場から評価していただきたいのです。 ほかにも数名の患者さんの手記を載せてあります。
元気な方々とはいっても、治療中の患者さん方にご病気のことを書いてくださいとお願いするのは、なかなか気の重いことでした。 断りにくいようではいけないと思い、遠まわしにお聞きしてみたのですが、思いもかけず、皆さん積極的に、それも多くの方々は実名で登場してくださいました。
ご自分の経験を知らせることによって、病気に苦しむ方々のために役立てば……というのが、共通したお答えでした。 心より御礼申し上げます。
ここにも手記を寄せていただいた2人の患者さんに、実名で登場していただきました。 なお、初めの手記につきましては、私が患者さんのご了解をいただいたのち、編集部が直接、各患者さんにお願いして作成した原稿を、ご本人に最終チェックしていただいたものであることを、つけくわえさせていただきます。

がんとの上手なつき合い方とはがん克服への新たな可能性を求めて私たちの体内では毎日、数百から数千のがん細胞が発生していると考えられています。 しかし、がん細胞が発生したからといって、すぐに発病するわけではありません。
その理由は、人間の体内には、発生したがんの働きを抑え込むさまざまなしくみが、もともとそなわっているなかでも、もっとも中心的な役割を担っているのが「免疫系」とよばれる巧妙な防御機構で免疫系は、血液にふくまれる白血球の仲間、すなわちリンパ球を中心とした一連の細胞群(以下、免疫細胞)などから構築されていますが、これが正しく有効に働いているかぎり、がんが暴走することはありません。 ところが、がん細胞がこの免疫系による防御機構をかわす能力を獲得していったり、免疫系の働きがなんらかの原因、たとえば老化や過剰なストレスなどによって弱まることが起こりえます。

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